認知症を患う人との付き合い方。地域のみんなが「認知症」を受け入れていた田舎の対応。

介護
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認知症を患った人がそのまま一人で生活をしていた

Photo by Taylor Deas-Melesh on Unsplash

介護の仕事をしています。

数年前実家に帰った時の話です。

親戚のおばあちゃんが認知症を発症したと聞いていました。

祖母の家で過ごしていたら、そのおばあちゃんが訪ねてきました。

「ごめんね~、うちのお父さん来てない?」

あれ?と思ったんですが私より先に祖母がおばあちゃんの対応をしました。

「おじさんうちに来てないよ~。

浜の方に行っとるんかな。

うちに来たらおばさんが探してたって言うとくね~。」

おばあちゃんはお礼を言い、私が帰省していることを喜んで自分の家へも顔を出すようにと言い、そのまま笑顔で帰って行きました。

おばあちゃんの夫は数年前に亡くなっていました。

「ボケてしもて、ああやって時々おじさん探して回りよるんよ。」

と後から祖母が言いました。

聞くと、おばあさんは夫を亡くしてから認知症を患い、少しづつ辻褄の合わない言動が増えていったという事です。

夜は毎日、同じ町に住む息子がおばあさんの家に行き、おばあさんの様子を確認しているそうです。

食事の宅配サービスを利用したり、デイサービスを利用する日もあるそうですが、基本的におばあさんは認知症になる前の生活とほとんど変わらない生活を送っているとのことでした。

介護を学んでいないけれど、その人の事をよく知っている

その認知症を患ったおばあさんへの近所の人の対応はみんなうちの祖母と同じようなものだそうです。

なんとなくおばあさんを安心させる対応をしていたんです。

地域のみんなは介護の知識があるわけではありません。

けれど、そのおばあさんの事は良く知っています。

おばあさんは何十年とその小さな田舎のコミュニティで生活していたんです。

認知症を患っていても、”その人はその人である”と周囲が理解し、”その人がどうすれば穏やかに暮らしていけるか”という事をわかっているんですよね。

誰かが「認知症対応とはこういうものだ」とみんなに教えた訳ではなく。

その人とその人の暮らしを認めている環境だったんです。

施設では「徘徊」という言葉で語られ、困った周辺症状に挙げられる行動が、とても自然に当たり前の行動として地域に受け入れられていました。

認知症を患っていても馴染みの場所で暮らせるということ

Photo by Sergiu Vălenaș on Unsplash

私が一番最初に認知症を患う人と関わったのは記憶の中では小学校入学前です。

祖母の家の近所でおばあさん達が話している前を通り過ぎる時、そのおばあさんの一人に声を掛けられたんです。

「おい、どこの子や?」

その地域を歩くと、時々そうやって声を掛けられるので返す答えを持っていました。

「○○のところの孫のアイイロ(私)や。」

「そうか~。

○○の孫か。」

そうして2,3分話してもう一度おばあさんが私に聞きます。

「どこの子や?」

え?

もう一度答えます。

「○○のところ孫のアイイロ(私)。」

「そうか~」

とおばあさんはまたニコニコ話を始めます。

周りのおばあさんもニコニコしています。

母は何だか笑っています。

またおばあさんが私に聞きます。

「ほんでお前どこの子や?」

え??

2,3分おきにこれを繰り返すんです。

幼稚園児の頭の中は不思議でいっぱいです。

おばあさん達と別れて、母にどうして同じことを何度も聞いてきたのか聞きました。

「ボケてるんよ」

笑って母が答えました。

当時「ボケている」と言うのが何なのかよくわかりませんでしたが、新しい体験にすごく興味津々だったのを覚えています。

あのおばあさんの認知症の症状を、一緒にいた他のおばあさん達も受け入れていたんだろうと思います。

そうして同じ地域でそれまで何十年と過ごしてきたように、認知症を患ってもまた同じように過ごせていたんだろうと思います。

高齢者施設に入所すると馴染みの場所や物、人との関係が途切れてしまいます。

私達施設スタッフも出来るだけその人が安心して施設で暮らせるよう努力しますが、やっぱり施設は馴染みの場所ではないんです。

慣れ親しんだ我が家で何十年続けてきた生活が、周囲の馴染みの人たちの対応により支えられていることは本当に素敵な事だと思います。

最近アルツハイマー型認知症の治療薬「アデュカヌマブ」が承認されましたが、治療薬の開発と共に、みんなが認知症を患っても今までと近い暮らしが出来る社会を目指すことも大切にしたいなーと思います。

認知症の薬のニュースを見てそんな事を思ったりしました。

明日もお仕事頑張ります。

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